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おもてなしの心

2019年3月26日 岩国

 確か2007年の春ごろ、岩国の「錦帯橋世界遺産専門委員会」の委員長からメールで、委員会に来てほしいとの依頼があった。土木学会の土木史委員会で色々と指導していただいた方なので、断るわけにはいかない。委員長いわく「岩国で、橋に関する国際シンポを企画したいが、外国の方で世界遺産の橋に関する専門家を知らないか」ということだ。私は、最適任者と思われるCotte先生を紹介した。

 

 「では、夏に渡仏して、ご本人に打診してきましょう」などと、調子のいい約束をしたのが失敗であった。もともと夏にはフランスの石橋調査をする予定であったし、彼の影響で世界遺産にも関心を持っていたのでその時は、あんなに大変なことになるとは思わなかった。旅行の途中、Côtes du Rhôneワインの名産地の近くにある彼の自宅まで遊びに行った。夫婦での招待を快諾してくれた。彼は日本に来たことがあったし、熊本を訪問した時には、黒川温泉に連れて行ったこともある。最初は少し戸惑っていたが、露天風呂には大満足であった。問題はフランス側にあるのではなく、市役所の丁寧すぎる外国人対応だ。

 

 さて帰国後、岩国市のシンポ企画の会合で、外国人(特に同伴の夫人)への「おもてなし」が話題となった。例によって、分刻みの日程を立てるのが仕事の人たちなので、宿泊は、懇親会は、昼食は、等々きめ細かい。「そんなの勝手にさせればいいよ」という私の意見は通らない。市の面目がある。特に、英語も通じない女性への入浴も含めた「おもてなし」をどうするかが、真剣な議論となった(こういうことを、会議の議題として真剣に話しているということが「すごくないですか?」)。その結果、お風呂に関しては女性職員が付き添って入ることになった。そんな細かな案件に、小林委員はいちいち応対した。昼食は、近くに適当な(つまり立派な)フランス料理店がないので、日本料理でいいだろうかという彼らの悩みもあった。私と異文化(もちろん日本)との衝撃的な出会いであった。結局私が提案した、ホテル近くのお好み焼きで決着したが、その顛末も書きたいところだが、趣旨が異なるので別の機会に。

 

 2008年2月のシンポは、アメリカとフランスの専門家が岩国で、世界遺産と橋を論じ、「錦帯橋は世界遺産にふさわしい」ということで閉会した(私と市の努力は報われた)。ただし、「ふさわしい」には幾つかの条件があり、それがクリヤーできるかは、今に至るまで、議論が続いている。

 

 さて、写真は数年前の春、Cotte先生が再訪され『世界遺産の提案書に関する意見交換会』のとき川から見学した時の様子である。鵜飼い船への乗船は彼も嬉しがっていた。