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一見に値する城

2020年1月22日 和歌山

 ある委員会の勉強会で、その先生の専門の話を聞くより、「今、話したいこと」を聞く方が良いのではないかという、極めて有益な意見が通った。委員会を2時間やり、残り1時間を講話の会とし、終わったら話を肴に盛り上がるという算段だ。

 

 最初の講師は元委員長で都市計画学の大家。依頼した演題は、「土木遺産としての城の石垣」。楽しい話が続き、質問時間になり表題のような質問をした。熊本城と和歌山城がすぐでて、もう一つを思い出せない。「3大何とか」と言い切らずに、あれも、これも行く価値のある所と、話された気もしてきた。大人の発言だ。しかも、20年以上前のこと。

 

 さて、私の記憶する石垣の城は、幼稚園の時、葬式で行った大阪で、親戚の老夫婦に連れて行ってもらった大阪城。二人が交互に繰り返した「ナンコウフラク」という意味不明のオマジナイと巨大な石が、私の中で「城」というもののイメージを固めた。以後、どの城を見ても感動はなかった。そして、徐々に「難攻」も「不落」も解ってきた。

 

 その後、竹田の岡城とか臼杵城とかをみても、感動はなかった(今なら楽しいはず)。人生の始めに凄いものに出会うというのは不幸なことである。そして、私の城の難攻不落が更新されたのは、大人になって再訪した熊本城である。天守閣の建築的な価値でもなく、見事な石積の曲線でもなく、優れた縄張りであり、街道との接続も含めた都市計画である。それ以降、私の城のベストワンは変わっていない。

 

 ただし、岩国の錦帯橋世界遺産委員会に参加するようになって、少し考えが変わった。小さくても、どのような戦略的な意図があるかは重要だ。たとえば、仮想敵はどの方向から攻めて来るのか、援軍が来るまで城を維持する工夫は、後詰決戦の場所はきちんとデザインされているか、とか。軍事面だけでなく、経済面で、縄張りはどのように構想されたのかなどと考えると、小さいなりに面白い城はいくつもある。せめて名城100選はすべて見たいと思うようになった。10年ほど前のことである。

 

 まずは、講話で出てきた和歌山城を一見しなければと思ったが、出張の合間に行くということができない。と言って、大阪より先に仕事はない。盛岡から沖縄まで50以上の城めぐりの後、一大決心をした。大阪出張を一日延長し、大阪のホテルから日帰りで和歌山城を目指した。他の名所にも、地元グルメにも目もくれず、お城往復ホテル着の行程。

 

 虎伏山というのは、二コブになっていて、それぞれの頂上を平坦にして、本丸と本丸御殿を築いたらしい。本丸の天守の造りは、隅櫓を配した手の込んだもので、見事だと思った。また外堀は紀ノ川に繋がっており、海上交通との連携のよさは、海城といってもいいほどだ。ただしこれは、帰りの電車の中でGoogl Mapsを眺めながら思った素人の感想に過ぎない。